2016年11月24日木曜日

MTRL KYOTO Fabric Creator in Residence Autumn/Winter 2016

MTRL KYOTO Fabric Creator in Residence Autumn/Winter 2016
テーマ:インターフェースとしてのテキスタイル


11/14(月)から18(金)まで、MTRL KYOTOで行った5日間のレジデンスプログラムが終了しました。
その動機~過程~まとめをレポートいたします。

今年の8月に初めてMTRL KYOTOを訪れた際に、
建物自体のかっこよさ、制作を行うための機材の豊富さ、また素材のバリエーション、
常に人が出入りする風通しの良さに魅力を感じ、
こんなところで滞在制作してみたい。と思ったのが最初のきっかけでした。
それから3ヶ月も満たないうちに、お声がけいただいて、
今回、実現する運びとなりました。


~プログラムがスタートするまで~
5日間滞在制作をするのだから、なにか作品を作り上げなければいけない。と思い、
いつもは、コンセプトやイメージをある程度固めてから制作へ移行するので、
今回のそれらをずっと考えていましたが、
出発前のMTRL KYOTO 木下さんとのやりとりのなかで、
どうやら、現場に行って、そこで受けたインスピレーションで制作するのがよさそうだ、ということに気付き、ほぼノープランで、
手持ちの糸、針、刺繍する為の道具を思いつくばかりのもの全てを持って、
MTRL KYOTOへ向かいました。

京都で受けたインスピレーション、、じゃあまずは京都を歩いてみようと思い、
わたし自身、山を題材とした作品を多く作っていることもあり、
初日京都に到着したその足で比叡山へ登ろう、と計画していたところ、
到着した瞬間に雨が降り、出鼻をくじかれましたが、
これはあまりいろいろ計画せずに、流れにまかせた方がよさそうだ、と感じ、

そのままの足でMTRLへ向かいました。


~初日~中盤~
ほぼノープランでMTRLへ到着し、機材や素材についての説明を受けながら、
初めて触れるそれらに未知の可能性を感じつつも、
何ができるのか具体的には思いつかず、
ただ何か新しいものが生まれそうな予感にぞくぞくとしていました。
その中でも一番興味をひいた、熱を加えることで形状記憶することができる、
ユニチカ株式会社が開発した「メルセット」という
新繊維素材を使ってみたい、ということと、
3Dプリンタで何かを作ってみたい、ということがなんとなく決まって行き、
3Dプリンタでまず自分の胸像を作ることにいたしました。





3Dプリンタで成型したものには針と糸を通すことはできない、
さてどうしようか、と思ったときに「メルセット」の登場です。
自分の胸像に、メルセットをあてがい、アイロンやはんだごてで熱を加えながら、
凹凸をなぞり、自分の抜け殻のようなものを作ることに成功。
凹凸の具合、形はそっくりそのままではありませんでしたが、
ここへ刺繍をくわえてデフォルメされていくということがわかっていたので、
ある程度の形をとらえればOKということにしました。






~中盤~制作物~
普段、刺繍の支持体として扱う布は、針の滑りがよくて縫いやすいもの、丈夫なもの、
などを基準に選んでいるので、
今回はまったく初めて扱う繊維、それも、熱をくわえすぎると固くなり
目がつぶれて針が通らない。
熱のくわえ方が弱いと形がきれいに作れない、というところで四苦八苦し、
また立体の状態で縫っていくというのは、平面で縫うのと糸の色や
縫ったときの糸方向の見え方が異なり、
どう縫ってもしっくりくるようにならず、四苦八苦、何度かやり直しながら、
2日目の夜に、ようやく方向性が固まり、見えてきました。




京都で滞在制作しているのに、インスピレーションを受けるような
京都らしいところにはまだどこへも行っていないな、、
と思いつつも、魅力的な機材とマテリアルが揃っているこの場所こそが、
インスピレーションの宝庫で、
ここへ滞在制作することが全ての目的を達成するんだという風に、
とてもコンパクトに考えがまとまりました。




3日目はこれを縫い進め、髪の毛には金銀糸を贅沢に使用し、ほぼ完成形へ。
できあがった3D刺繍によって作られた自分は、
まさにここへ滞在制作している自分そのものです。

一日中、自分の胸像と向かい合いながら、
自分を刺繍で作っているという自己と対峙した時間でした。













また、針で糸を通せれば、支持体は布でなくてもよい、と思っているので、
透明のアクリル板をレーザーカッターで三角に切り出したものに、
小さな丸をランダムに無数に配置し、穴をあけ、そこへ自由に糸を通していき、
山の作品を制作しました。
わたしは無意識につくられる刺繍の裏側が好きで、表も裏もない、と思っているので、
透明なアクリル板に刺繍する行為は、表も裏もどちらも同時に見せることができる魅力的なものに感じました。







また、山の形を形状記憶させて3D刺繍をほどこしてみたい、と思い、
まず紙粘土で凹凸のある山をつくり、3Dスキャン~3Dプリンタで出力し、
メルセットで形をとってから縫っていくということも試してみました。



 




その他、「ここへ来た印を残すかのように、この場所をHUCKして行ってほしい」
とのオーダーがあったので、
これも刺繍できそうだなと思っていた鉄で出来たパンチングボードを取り外して頂いて、
まるで寄生したかのような形で、刺繍を残していきました。





~まとめ~
初めて手にするものは、何が出来るか分からないという不安と、
何か分からないものが出来そうという期待の両方を持っていて、
また、今までのやり方ではうまくいかないという部分で苦しみましたが、
既成概念を一度壊し、そのものと向き合っていける、
まったく新しい考え方が出来る、というあらゆる方面からの感情の入り乱れがあり、
とてもエキサイティングな制作でした。
そして、まさにそれを体験できるための機材とマテリアルと
環境の揃っているこの空間にどっぷりとはまりました。
また制作環境としては、常に人が行き来し、
ミーティングやディベートを行っている場所なので、
わたしは敢えてふすまを閉めず、オープンにして空間を共有しながら制作していました。
普段はひとりで籠って制作しているので、人がいる空間で、
時々覗かれながら制作するというのはどんな気持ちなんだろう、と思いましたが、
制作に没頭するとまわりはまったく気にならなくなるし、
人がいることで気持ちが引き締まることもあり
また知り合いのアーティストやデザイナーが訪れてくれたことでリフレッシュでき
リラックスと緊張のバランスがちょうどよく交わっていました。
また今回出会った「メルセット」には、そこはかとない可能性を感じ、
それを使用することで「3D刺繍」という新しいジャンルを見いだし、
刺繍によりいっそうの息吹を吹き込むことができることに気付きました。
これを機会に、大きな作品、また別の形状のもの、
いろんなものを試してみたいと思います。



 


今回はこのような機会を与えていただけたことに感謝の気持ちでいっぱいです。
MTRL KYOTOのクルーは、皆、とても心地よい人たちで、
基本的に「ダメ・できない」と言わない、
むずかしいことも好意的に一緒に考えてくれる、
それがこの場所の持つ可能性をさらに広げているんだと感じました。

今回制作したものは、MTRL KYOTOにて展示していただけることになりましたので、
お近くにお越しの際はぜひお立ち寄りください。
1Fのカフェでは、コーヒーもとても美味しくいれてくださいます。
どうもありがとうございました。

2016.11.24 二宮佐和子




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